大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福井地方裁判所 昭和44年(ワ)75号 判決 1972年1月26日

原告

渡一子

ほか二名

被告

福井県

ほか一名

主文

被告らは各自原告渡一子に対し金二、三〇〇、〇〇〇円、原告渡俊市に対し金二、一〇〇、〇〇〇円、原告渡美穂に対し金二、一〇〇、〇〇〇円及び右各金員に対する昭和四三年八月一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は一〇分し、その四を原告らの、その余を被告らの負担とする。

本判決は、被告らに対し合同して、それぞれ原告らにおいて各金四〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、原告ら各勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  原告ら訴訟代理人は「被告らは各自原告渡一子に対し金四、九〇八、〇六六円、原告渡俊市に対し金三、六〇八、〇六六円、原告渡美穂に対し金三、六〇八、〇六六円及び右各金員に対する昭和四三年八月一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、請求原因として、次の通り陳述した。

一  訴外渡藤志光(以下訴外渡という)は昭和四三年七月三一日午後九時四〇分頃普通乗用車を運転し、県道福井勝山線を福井方面に向け、西進中、勝山市北郷町森川地籍先に差し掛つた際、該道略左側にあつた幅約一・二米、長さ約三・九米、深さ約一・〇米の穴を認め、車が右穴に落ち込むのを避けるため急遽ハンドルを右に切り、該道路センターライン右側に出て穴を回避して進行したところ、折柄該道路センターライン右側を東進対向してきた訴外田中博運転の普通乗用自動車右前部に自車の右前部を衝突させたうえ、該道路外左側の木立内に自車を転落させ、よつて頭蓋底骨折の傷害を受け、即死した。

二(一)  被告福井県は右道路の管理者として、前記の本件穴が、工事のために掘られたままになつていて、同所における車両の交通が危険な状態になつていたのに拘らず、右危険個所表示の柵・夜間の赤色ランプ等の設備をすることを怠つたため、前述のように右穴を回避し道路右側に出て訴外田中の運転する自動車と衝突した訴外渡を死亡するに至らしめたのであつて、同訴外人の死は被告福井県の管理する右道路の瑕疵に基くといわなければならない。

(二)  道路法第四二条によれば道路管理者である被告福井県は一道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もつて一般交通に支障を及ぼさないように務める」義務があり、道路法施行令第一五条五号によれば、道路を占有して工事を実施する者は工事現場に夜間赤色灯をつけることが義務づけられているところ、被告らはかかる義務を全く遵守せず道路の穴掘り工事を中止して放置したため本件事故に至つたもので、その瑕疵は重大である。

本件道路の管理担当者である水野喜一郎は、事故の発生した当日の午前一〇時頃被告会社係員内山より道路工事を施行することの報告があつたが、月末で忙しいため工事状況、工事後の危険防護措置について現場を視察しなかつたものであり、怠慢といわなければならない。

三  被告福井鋼材株式会社は被告福井県(所管勝山土木事務所)から勝山市北郷町森川地積先県道上所在のガードロープ支柱取替等の修理工事を請負い、右工事を訴外谷口幸男にさせた。谷口は昭和四三年七月三一日午前九時頃より、警察署の道路使用許可も無しに、右工事のために前記の穴を掘り、同日午後三時頃右穴を掘り上げた。同訴外人は、右穴の位置・大きさから、これをそのままに放置すれば、同所を通行する自動車の運転者が、穴のあることに気付かずに、穴に落ち込み、あるいは穴に落ち込むのを回避する際不測の事故を起こす危険のあることを認識し得たのにかかわらず、右穴により危険であることを標示する柵あるいは赤色ランプ等の必要な設備をしなかつたため、該過失に因り訴外渡を死亡するに至らしめたものであり、被告会社は民法第七一五条に基き谷口の使用者として賠償責任がある。

四  損害

(一)  訴外渡の過失利益による損害金九、三二四、二〇〇円右訴外人は当時満二七歳で、高清織物有限会社の工場責任者として一か月金四五、〇〇〇円の給料及び年間金一〇〇、〇〇〇円の賞与を得ていたので、少くともさらに三六年間は就労できるとし、これより一か月金一五、〇〇〇円の生活費を控除し、複式ホフマン式計算方法により、三六年間の逸失利益の死亡時現価を求めること。

46万円年間純益×20.27係数=9,324,200円

原告一子は妻、原告俊市・同美穂はいずれも子として、訴外渡の相続人であり、各三分の一の相続分があるので、右金九、三二四、二〇〇円の三分の一に当たる各金三、一〇八、〇六六円を承継した。

(二)  訴外渡の慰藉料金一、五〇〇、〇〇〇円

原告らは各金五〇〇、〇〇〇円を承継した。

(三)  原告ら各自の慰藉料

原告一子 金一、五〇〇、〇〇〇円

原告俊市 金五〇〇、〇〇〇円

原告美穂 金五〇〇、〇〇〇円

(四)  弁護士費用 金八〇〇、〇〇〇円

原告一子負担

五  損益相殺

原告らは、自動車損害賠償責任保険金二、〇〇〇、〇〇〇円を受領したので(右保険金三、〇〇〇、〇〇〇円の内金一、〇〇〇、〇〇〇円は訴外渡の両親に交付されている)、内金一、〇〇〇、〇〇〇円は原告一子の前記四の(三)慰藉料に、内金五〇〇、〇〇〇円づつは原告俊市・同美穂の四の(三)慰藉料にそれぞれ充当する。

六  よつて、原告一子は前記四の(一)ないし(四)の金員より同五の金一、〇〇〇、〇〇〇円を差引残金四、九〇八、〇六六円、原告俊市・同美穂はそれぞれ右四の(一)(二)(三)の金員より五の金五〇〇、〇〇〇円を差引残金三、六〇八、〇六六円及び右各金員に対する本件事故の翌日である昭和四三年八月一日以降完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第二  被告福井県訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、

答弁として、次の通り陳述した。

(一)  原告ら主張一の事実のうち、昭和四三年七月三一日夜訴外渡が普通乗用自動車を運転し、勝山市北郷町森川地籍先県道福井勝山線を西進中、田中博運転の普通乗用自動車と衝突する事故を起こし、死亡したことは認めるが、その余は不知。

(二)  同二のうち、本件事故が右県道の瑕疵に基くとの原告ら主張は否認する。

(三)  同三の事実は不知。

(四)  その余の原告らの主張は否認する。

(五)  本件ガードロープ支柱工事は被告福井県が道路管理者としての義務を遂行するため、被告福井鋼材株式会社に請負わせたものであり、右受注者において道路の一部を占有し該路面に穴を掘つたものであり、道路施行令第一五条五号による工事現場に夜間赤色灯などをつける義務違反があるとするならば、その責任は右工事を施行した被告会社又はその下請人である訴外谷口にあるといわなければならない。

(六)  本件事故現場付近の状況からみると、穴が掘られている工事個所は、通常の運転者には、かなりの遠距離からでも見通せる平担な、しかも直線の路面上であり、夜間でも自己の運転する自動車の前照灯の照明によつて該工事個所の異常を充分予知でき、事前にこれに対応する処置をとり、穴を避けて通過できることが明らかである。訴外渡が右工事現場の直前にさしかかるまで路面上の異常に気付かず、この穴を発見できなかつたことは、職工を送り返す時間も迫り帰途を急いでいたため、前方不注意の運転をしていたことを推認するに十分であつて、同人に全く過失がないとの原告らの主張は正当でない。

第三  被告福井鋼材株式会社訴訟代理人は「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁として、次の通り陳述した。

(一)  原告ら主張一の内、訴外渡が原告ら主張の日時交通事故に因つて死亡したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二)  同二の事実は不知。

(三)  同三の内、被告会社が原告ら主張の工事を被告福井県より請負い、右工事を訴外谷口幸男に下請させたことは認めるがその余の事実は否認する。

(四)  同四の内、原告らと訴外渡との身分関係は認めるが、その余の事実は否認する。

(五)  原告ら主張の自賠責保険金が交付されたことは認める。

(六)  本件事故は訴外渡の自動車操縦のミスにより発生したものであつて、該道路に掘つてあつた穴と事故との間には相当因果関係はない。

本件道路の有効幅員は五・五米、路肩は両側とも各〇・五米で、これを含めると幅員六・五米となり、センターライン左右の有効幅員は各二・七五米、ガードロープ修理のため掘つた穴は、路肩〇・五米の部分を含め幅一・〇〇米、長さ三・〇〇米、穴の周りに配置された玉石・土砂の幅は〇・五米であつたから、穴の在つた側のセンターライン左側有効幅員二・七五米の内、右穴のため通行不能部分の幅は一・〇〇米、したがつてセンターライン左側丈けでも通行可能部分として幅員一・七五米の余裕を残していたのである。訴外渡の運転していた日野コンテツサーのトレツド(車輪間距離)は前車輪間一・二五米、後車輪間一・二二五米、訴外田中博の運転していたマツダフアミリアのトレツドは前車輪間一・二〇米、後車輪間一・一九米であるから、右日野コンテツサーはセンターラインをこえることなく、道路左側で右穴の横を無事通過できた筈である。仮に訴外渡が穴を避けるため少々センターラインをこえたとしても、前記の如く事故現場付近の通行可能な道路幅員が(穴の幅員を除いて)四・五五米であつたのに対し、右車両二台の全幅の合計二・九九米に過ぎず、その差は一・五六米もある。訴外田中は訴外渡との衝突を避けるため十分道路左端に寄つていたから、訴外渡が通常の運転をしておれば本件事故は避けることができたのである。また事故当時訴外渡は飲酒後で若干酩酊しながら急ぎ帰宅の途中、時速五〇~六〇キロで進行中、本件事故を起こしたのであるが、これは同訴外人のハンドル操作が適正でなかつたことを推定させるのであり、本件事故と前記穴との間には相当因果関係がない。

(七)  赤色ランプの標示設置をしなかつた点について。

被告会社が被告福井県より請負つたガードロープ修理工事代金は四〇、〇〇〇円に過ぎず、しかも一日で完了する予定であつたから、赤色ランプの標示設備の費用は見積りされていなかつた。しかし、谷口は現場近くに「工事中」なる看板を立て、また柵の代りに穴の周りに玉石を並べて置いたし、ガードロープ支柱にはスコツチライトが設備してあつたが、これは赤色ランプ以上の照明効果があるので、赤ランプを使用しなかつたのである。

(八)  ガードロープ修理工事は被告会社により谷口に下請させたが、該工事で谷口を監督すべきは被告福井県(勝山土木事務所)であつて、被告会社ではない。

すなわち、福井県工事請負契約約款第八条三項には「工事請負人又は現場代理人は、工事現場に常駐し、監督職員の監督又は指示に従い、工事現場の取締および工事に関する一切の事項を処理しなければならない」こととされており、福井県財務規則第一八三条は「1 契約担当者又は契約担当者から監督を命ぜられた職員(監督職員)は、契約の適正な履行を確保するため、細部設計図原寸図等の必要があるときは、当該契約にかかる仕様書および設計書等に基いてこれを作成し又は契約者が作成したこれらの書類を審査しなければならない。2 契約担当者又は監督職員は必要があるときは請負契約の履行に立会い、工程の管理又は履行途中における工事、製造等に関する材料の試験もしくは検査等の方法により監督し、契約者に必要な指示をしなければならない。」と規定しており、谷口は被告会社の右現場代理人で、監督職員である訴外水野喜一郎の全面的監督指導下にあつたから、被告会社において谷口を監督する余地は全くなかつた。

(九)  過失相殺

仮に被告会社に責任があるとしても、前記の如く亡藤志光の過失は重大であり、本件事故発生の原因は九〇パーセント以上右訴外人の過失によるといわなければならない。

第四  原告ら訴訟代理人は被告会社の主張に対し次の通り陳述した。

甲第三号証の一(実況見分調書)によると、路肩〇・五米、センターライン左側部分二・八米の道路に幅一・二米の穴が掘られ、幅〇・五米の玉石が置き並べられていたから、左側通行可能部分が一・四米であることは計算上認められる。しかし、右通行可能部分を机上の計算上通行できるからといつて、現実に穴の存在することを知らずに、時速六〇粁で自動車を走行させていた亡藤志光が穴の直前で穴に気付いて驚愕して、ハンドルを右に切り、避けようとした場合、センターラインをこえることは当然であつて、それを計算上から、左片側を通行することが可能であるとの主張は全く不当である。

工事中の看板というのは縦五〇糎、幅四〇糎の小さなもので、夜間用のものでなく、いかなる工事中のものかも表示されていないから、これをガードロープに一枚立てかけてあつたとて夜間通常速度で通行する自動車の運転者から認識できるものでない。

柵の代りに玉石を並べていたというが、石を置くこと自体が危険行為であつて、右主張は不当である。

スコツチテープの目的は夜間テープが光を反射して支柱の存在を見易いようにしているもので、夜間工事の赤色灯の代用となりうるものでない。

第五  〔証拠関係略〕

理由

一  訴外渡が昭和四三年七月三一日午後九時四〇分頃普通乗用自動車を運転し、勝山市北郷町森川地籍先県道福井勝山線を西進中、対向東進してきた訴外田中博運転の普通乗用自動車と衝突する事故を起こし、死亡したことは当事者間に争いがない。

〔証拠略〕によると、

右事故現場である県道の左側(南側)路肩寄りに、当時、ガードロープ支柱を設置するため掘起こした穴があつて、訴外渡は前記自動車を運転し、時速五〇粁以上で、右県道センターライン左側路上を西進し、事故現場に差し掛つたところ、右穴を認めて、これを回避するため、ハンドルを右に切つてセンターラインの右側に進出した後、左側に戻ろうとして直ぐハンドルを左に廻したが、センターライン右側道路上において、自車の右前部を、折柄同県道右側を東進対向してきた訴外田中の運転する自動車右側前部に衝突させ、このため田中の運転する自動車は右衝突地点より、訴外渡の自動車と激しく接触しながら、左斜方向に約一〇数米進行した後北側道路下の田に転落し、他方訴外渡は衝突地点より左斜方向に約二〇数米進行した後南側道路下の雑木地内に、車もろとも転落し、頭蓋底・顔面骨々折の傷害を受け、その場で死亡したことが認められる。

二  本件は被告福井県の道路管理上の瑕疵に基く事故といえるか。

本件事故の発生した道路が被告福井県の管理する県道であることは当事者間に争いないところ、〔証拠略〕を総合すると、

被告福井県(所管勝山土木出張所)は被告福井鋼材株式会社に対し同年七月一九日本件事故現場である勝山市北郷町森川地籍先県道福井勝山線に設置されていたガードロープ(道路南側)同支柱の修理工事を請負わせ、同被告会社は同月二五日頃右工事を訴外谷口に下請させたこと、そこで谷口は同月三一日午前九時頃右工事に取りかかり、同日午後三時頃までかかつて、該道路左側(南側)路肩部を含め幅約〇・八米、長さ二・七〇米、深さ一・二〇米くらいの穴を掘り上げたので、翌日にガードロープ支柱を右穴のなかに立て、そこへコンクリートを流し込む仕事をすることとして、現場を引揚げたが、その際右穴の目印となる配慮としては、穴の周りに人の頭大の玉石を一、二列(幅約〇・七米)並べて置いたに過ぎなかつたこと。右県道のアスフアルト舗装部分はセンターラインの左右両側とも二・七五米であるが、左側舗装部分の内車両の通行できる幅員は、右穴(玉石を含め)で約一・〇〇米狭められ、約一・七五米となつたこと。同所は付近に人家もなく、夜間の照明施設もない場所であるので、夜間東方から走行してくる車両が右穴に落輪したり、あるいは穴の周りの玉石に進行を阻まれて操縦の自由を失つたりして不測の事故を起こす危険のあることは明らかであること。したがつて、夜間該地点を通行する車両運転者に対し、相当の距離において、そこに危険個所があることを知らしめる必要があるのであつて、このための措置としては右穴の個所に夜間赤色ランプを点灯するとか少くともバリケード柵などを設備して、危険個所の標示とするのが相当であるのにかかわらず、谷口は右のように玉石を周りに配置しただけで、他に何らの措置もしないで、同日の工事を終えて現場を引揚げたこと。しかして、被告福井県の右工事の所管者である勝山土木出張所では被告福井鋼材株式会社から同日午前中「今日工事をする」旨連絡をうけ、該工事が二日にわたることを知りながら、一度も右工事現場に出向せず、したがつて谷口に対し道路管理者として為すべき指示監督を全くしなかつたことが認められるところ、〔証拠略〕によると、訴外渡は右穴の欠損個所に赤色ランプ等の有効な危険防止施設がされていなかつたために、右穴に気付くことがおくれ、これを回避しようとして対向車と衝突したうえ道路下に転落死亡したことが認められる以上、本件事故は右県道における被告福井県の管理上の瑕疵に基くものというべきであり、他に以上の認定判断を左右できる証拠はない。

谷口が本件事故現場の東方約五〇米の地点に五〇糎×四〇糎大の「工事中」の標示立札を立てておいたことは〔証拠略〕により認められるが、これをもつて右認定の瑕疵を消去させるに足りない。

してみれば、被告福井県は訴外渡の死亡により生じた損害を賠償する義務があるといわなければならない。

三  被告福井鋼材株式会社に対する民法第七一五条による責任の有無。

さきに認定したとおり、前記穴の位置・状況にてらし、右穴の存在は夜間該道路地点を通行する車両、ことに高速度で走行する自動車に対し不測の事故を惹き起こす危険を予測させるものであるから、右穴を堀つた谷口としては赤色ランプを点灯することその他有効な危険防止措置を講ずべき義務があるのに、これを怠つた過失により本件事故が発生したものとみることができるところ、〔証拠略〕によると谷口幸男は被告福井鋼材株式会社より本件工事を下請したものである(この点当事者間に争いがない)が、工事に必要な材料はすべて被告福井鋼材株式会社より提供されて、同月三一日午前中より右工事を施行したものであり、同日右現場で被告福井鋼材株式会社担当員内山某の見廻りを受け、その際工事の仕様、方法等について指示を受けていることが認められるので、これによれば、被告福井鋼材株式会社と谷口との間には民法第七一五条の使用関係を認めるのが相当である。

被告福井鋼材株式会社訴訟代理人は、本件道路は幅員五・五米、右側路肩〇・五米を加えると六米の幅員があり、したがつて右穴による通行不能部分を除外しても、二台の自動車が充分対向併進することのできる余裕(幅員)があつたから、本件事故は訴外渡が過度にハンドルを右に切つたために発生したもので、過失は右訴外人にある旨主張するのであるが、後記認定の如く右訴外人に過失のあることは兎も角として、本件事故は、有効適切な危険標示を欠いていたため、右訴外人において工事用に掘られていた穴の在ることに気付くことがおくれ、急遽ハンドルを右に切つたところ、対向車の前を通過して道路左側に戻ることができず、同車と衝突したというものであつて、このような事情の場合、右主張の程度の余裕が路幅ないし車幅上算出できるからといつて、本件衝突事故が通常起こり得ないものと解することはできないから、過失は訴外渡のみにあるとの主張は採用できない。

そうとすれば、被告福井鋼材株式会社は民法第七一五条に基き訴外渡の死亡により生じた損害を賠償する義務があるといわなければならない。

四  損害

(イ)  〔証拠略〕によると、訴外渡は当時満二七歳で、妻の原告渡一子との間に原告俊市(当時三歳)、原告美穂(当時生後三か月)があり、高清織物有限会社に勤務し、一か月金四五、〇〇〇円、賞与年間金一〇〇、〇〇〇円を得、原告一子も同会社に常傭でなく日給で働いていたことが認められるもので、右訴外人の月額生活費相当額金一八、〇〇〇円を差引き年間純収益は金四二四、〇〇〇円となるから、なお三六年間稼働できるとして年五分の複式ホフマン計算方法によると、

424,000円×20.2745=8,596,388円

右の通り、金八、五九六、三八八円となることが明らかである。

しかしながら、訴外渡がハンドルを切り避けようとした穴(玉石を含む)は道路左側路肩端より路央にかけ幅約一・〇米のものであり、その外側は人の頭大の玉石一〇数個で囲まれていたものであること、また検証の結果(第一、二回)によると、該地点は一直線で見透しの良い場所であり、かつ当時は小雨で滑り易い道路状況であつたことが認められるから、前方の注視を怠らないで慎重に自動車を運転していたならば、相当の距離において右の穴・玉石によつて前方道路左側の一部の通行が障害され、異常となつていることに気付くことができたと思われるところ、右訴外人が自動車を運転して該地点にさしかかつた際、折柄西方より対向車が至近距離に接近していたのに拘らず、同車の前に進出した上素早く左斜めに方向を転じ擦れ違い進行しようとして、急にハンドルを右に切り、センターラインをこえ、対向車と正面衝突するばかりの地点まで道路右側に進出した原因は、同訴外人が穴の直前に至り急遽これを避けようとしたからであつて、該地点に至るまでの間において、早くより右障害物に対応して自車を減速させる等して、対向車との衝突事故を未然に防止すべき運転操作をとることも不可能ではなかつたと思われることを勘案すると、同訴外人が右穴の直前に至るまでこれに気付かなかつた点において過失があるといわなければならない。

訴外渡の右過失を考慮すると、被告らが賠償すべき前記逸失利益による損害は金六、〇〇〇、〇〇〇円をもつて相当額と認める(原告らにおいて各三分の一づつ相続承継)。

(ロ)  次に慰藉料について検討すると、訴外渡と原告らの身分関係年令その他右訴外人の前記過失等を斟酌し、訴外渡について金六〇〇、〇〇〇円(原告ら三名で三分の一つづ相続承継)、原告一子について金六〇〇、〇〇〇円、原告俊市・同美穂について各金四〇〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。

(ハ)  親権者の原告一子が弁護士報酬を負担することは適当であるが、これによる賠償請求額は本件事案の内容経緯にてらし金五〇〇、〇〇〇円を相当と認める。

五  損益相殺

原告らが自賠責保険金二、〇〇〇、〇〇〇円を受領したことは被告福井鋼材株式会社との間において争いがなく、被告福井県との間では〔証拠略〕により認めることができるところ、内金一、〇〇〇、〇〇〇円は原告一子の損害に、内各金五〇〇、〇〇〇円は原告俊市・同美穂の損害にそれぞれ充当したことは原告らの主張するところであるから、これらを各原告の損害賠償額よりそれぞれ控除しなければならない。

六  結語

よつて、被告らは各自原告一子に対し金二、三〇〇、〇〇〇円、原告俊市・同美穂に対し各金二、一〇〇、〇〇〇円及び右各金員に対する昭和四三年八月一日以降完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払う義務があるから、原告らの請求は右の限度でこれを認容し、その余は棄却することとし、訴訟費用の負担・仮執行の宣言につき民事訴訟法第九二条第九三条、第一九六条を適用して、主文の通り、判決する。

(裁判官 山内茂克)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例